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相殺の禁止




二つの債権が対立していれば、常に相殺できるというわけではありません。対 立する債権債務があっても相殺できない場合というのがあります。かなり重要 ですので、どのような場合に相殺できないかについて、おさえておく必要があ ります。


■(1)特約による相殺の禁止
まず、お互いに相殺をしない約束をしたときは、相殺できません。当たり前で すね。「お互いに相殺するのはやめようね」って契約をするわけです。それで 相殺していたのでは、約束を破ったことと同じです。約束を破ってはいけませ ん。なので、この場合には相殺できません。


■(2)相殺の性質による禁止
次に、例えばアパートの隣人同士で「夜は寝るからお互いに静かにするという 債務」のような、その性質上相殺に適合しないものも相殺できません。「お互 いに静かにする債務を負っているなら相殺しよう」と考え、夜中にドンチャン 騒ぎをしていたのでは意味ないですもんね。


■(3)自働債権に抗弁が付着している場合
自働債権に抗弁権が付着しているときには、相殺ができません。ちょっと次の 事例を見てみましょう。

■事例■
AがBに100万円の貸金債権を有しています。このときに、AはBから10 0万円のダイヤを買いました。よって、BはAに対して、100万円の金銭債 権を有しています(代金債権)。
■  ■

Bが相殺しようとする場合、Bが有する債権(自働債権)は売買契約に基づく 代金債権です。他方、売買契約に基づくわけですから、AはBに対してダイヤ の引渡債権を有しています。

そして、通常この代金債権と引渡債権とは、同時履行の関係にあります(53 3条)。つまり、Aは同時履行の抗弁権を有しています。

このことを前提として、相殺の話に戻りますと、ここでBが相殺するというこ とは、Bの代金債権が消滅しますので、代金を払ってもらったのと同じになり ます。この場合、Bの相殺を認めると、それによってAは同時履行の抗弁権を 一方的に奪われてしまいます。これではAがかわいそうです。

このようなAを保護するため、自働債権に抗弁権が付着しているときには、相 殺ができません。


他に抗弁権が付着している例として、自働債権の履行期がまだ未到来のときが あります。この場合も相殺できません。自働債権は相手方の支払いを強制する わけですから、履行期が到来している必要があるからです。つまり相手方には 期限の利益があるわけです。この期限の利益を無視することは出来ません。こ れは、期限未到来の抗弁と言います。



■(4)相殺と差押
それではここで、次の例を見てみましょう。

■事例■
AがBに対して金銭債権を有し、BもAに対して金銭債権を有しているとしま す。そして、Aが相殺権者です。このときに、Aの債権(つまり自働債権)が 差し押さえられたとします。
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このような場合でも、Aは相殺できるのでしょうか。

結論から言いますと、できません。理由を考えてみましょう。

相殺をするということは、自働債権については相手方の支払いを強制するわけ です。

しかし、差押は支払いの差止めです。ということは支払いが差し止められてい る以上、相手方に支払いを強制することはできないわけです。


では、逆の場合はどうでしょう。Aが相殺権者です。このときBの債権(つま り、受働債権)が差し押さえられたとき、Aは相殺できるでしょうか。

結論から言いますと、Aは差押前に自働債権を取得していれば、相殺できます。 逆に言うと、差押後に取得した債権を自働債権としては相殺できません(51 1条)。より正確に言いますと、たとえAが相殺をしたとしても、差し押さえ た人(差押権者と言います)に対して相殺を主張できないということです。

これはなぜでしょうか。

差押前にAが自働債権を取得したときは、Aとしては、

「もしBが払ってくれなければ、相殺すればいいや」

と考えているはずです。このAの期待は保護すべきです。Aが自働債権を取得 したときには、まだ差押がなされていないので、相殺ができると考えるのが通 常だからです。

他方、差押えの方が先の場合には、差押権者としては、

「相殺される心配はないな」

と考えているはずです。この差押権者の期待はやはり保護すべきです。あとか らAが自働債権を取得したとしても、差押権者の期待のほうが早いので、そち らを保護すべきなのです。

このように、受働債権が差押えられたときには、どちらが先かによって、相殺 できるか否かが決まるのです。



■(5)相殺と不法行為
やはり事例を見ていきましょう。

■事例■
AはBに対して貸金債権を有しています。このとき、Aは車でBに怪我を負わ せてしまいました。その結果、BはAに対して不法行為に基づく損害賠償請求 権を有することになります。このとき、Aは相殺できるでしょうか。
■  ■

結論から言いますと、相殺できません。受働債権が不法行為によって生じた債 権のときは、相殺はできません(509条)。

この場合、Bは怪我をしています。とすれば、治療費が少しでもほしいはずで す。いくらAからお金を借りているとしても、まず体を治すことが先決です。

よって、実際にお金を払わないとBのためにならないので、Aは相殺できない のです。

なお、逆に自働債権が不法行為によって生じた債権のときは、相殺できます。 自働債権ですから、相殺権者の債権です。相殺をなす者が、お金を払ってもら える立場を自ら放棄しているわけですから、保護する必要はないからです。




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