債権の準占有者に対する弁済 |
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では、本物の債権者ではないけれども、本物の債権者らしく見える人(債権の準占有者)に 弁済した場合には、どうなるのでしょうか? ■事例1■ 債権者Aが債務者Bにお金を貸していました。弁済期が到来したのですが、全くの第三者で あるCが、AのようなふりをしてBに支払請求をしました。 ■ ■ このようなことはほんとんどないかもしれませんが、あくまでも教室事例です。事例1のC のような人のことを債権の準占有者と言います。この場合、準占有者は債権者らしく見える だけであって債権者ではありません。無権限者です。ですから、仮にBがCに弁済をしたと しても、本来は弁済は無効になるはずです。 しかし、債務者は弁済期が到来している債務の弁済をしなければならない立場にあります。 弁済をしなければ履行遅滞になり、損害賠償や解除といった責を負うことになります。通常 の債務者であれば、そのような責を負うことは避けたいところです。すぐにでも弁済しなけ ればならない立場にあるわけです。目の前の人が本物の債権者らしく見えるのであれば、支 払ってしまいたいところなのです。もし支払わずに、しかもその人が本物の債権者であった としたら、債務者は損害賠償や解除の責を負うことになってしまうのです。つまり債務者B としては、悠長に構えている場合ではないのです。 このような債務者を保護するために、債権の準占有者に対して弁済した場合には、債務者が 善意かつ無過失の場合には、弁済は有効となるとしています(478条)。この場合の善意無過 失というのは、弁済を受取る人に弁済を受取る権限があると信じ、かつそう信じることに過 失がない場合です。 もしここで弁済が無効ということになりますと、債務者は準占有者に対して支払い、しかも さらに本物の債権者に対しても支払わなければならないことになります(二重払い)。これ では債務者に酷です。そこで善意無過失の債務者を保護しているわけです。 したがって、Bは善意無過失でCに弁済をすれば、その弁済は有効となります。 ここで一つ問題があります。準占有者が代理人として債務者の前に現れた場合です。次の事 例を見てみましょう。 ■事例2■ 債権者Aが債務者Bにお金を貸していました。弁済期が到来したのですが、全くの第三者で あるCが、Aの代理人としてBに支払請求をしました。 ■ ■ この場合、Cは無権代理人ではないのか。Cが代理人と称した場合には、表見代理の問題と して考えるべきではないのかという問題があります。 もしここで表見代理の問題となった場合、Bを保護するためにはAに帰責性が必要となりま す(なぜAに帰責性が必要なのかわからない方は、表見代理のところをもう一度勉強しなお して下さいね)。他方、事例1の場合にBを保護するためにはAの帰責性は必要ないので、 表見代理の問題となった場合には、Bが保護される場合が少なくなります。 しかし、同じように弁済期が到来し弁済の義務があって、損害賠償や解除の責を負う可能性 がありながら、相手が債権者と称したか代理人と称したかによって、債務者が保護されたり 保護されなかったりするのでは、債務者に酷です。 そこで代理人と称した場合にも、478条の規定が適用され、Aに帰責性がなくてもBが善意 無過失であれば、Bの弁済は有効とされ、保護されるのです(最判昭37年8月21日)。 無断転載・転送を禁じます。 Copyright(C)2006 後藤行政書士事務所 All Rights Reserved. |