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同時履行の抗弁権




1、総論
まず同時履行の抗弁権がどのようなものなのか、次の例を見ていきましょう。


■事例1■
買主Aは売主Bから100万円のダイヤを買いました。
■   ■


この場合、BはAに対して、100万円の金銭債権を有しています(代金債 権)。売主ですから、当たり前です。ですから、この場合、売主Bは買主A に対して

「代金を払え!」

と言えます。代金債権を有していますから、当然です。

他方、買主Aは売主Bに対して、

「目的物(事例1では、ダイヤ)を引き渡せ!」

と言えます。これは買主Aが引渡債権を有しているということです。そして、 通常この代金債権と引渡債権とは、同時履行の関係にあります(533条)。 つまり、同時に相手に渡しましょう、ということです。これを同時履行の抗 弁権と言います。売買契約の場合、買主、売主の双方ともに、この権利を有 しているわけです。

但し、この同時履行の抗弁権は特約で排除することができます。当事者間で、 代金の支払いが先と決めれば、同時履行の関係ではなくなります。もし代金 支払いが先であれば、代金支払いの先履行と言います。先に履行するので「先 履行」となるわけです。



2、各論
売買契約の場合には、わかりやすいので理解しやすいのですが、契約の種類 等によっては同時履行になるのか否かがわかりにくいものもあります。以下 で代表的なものを見ていきましょう。


(1)抵当権の抹消
まず抵当権の抹消の場合です。次の事例を見ていきます。


■事例2■
AはB銀行よりお金を借りました。Aは、その担保として、自己が所有する 土地にB銀行のために抵当権を設定しました。一年後に、AはB銀行に対し て借りたお金を返そうと思いますが、このときお金の支払いと抵当権の抹消 を同時履行と主張できるでしょうか。
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結論から言いますと、これは主張できません。主張できない理由については、 次のように考えて下さい。

抵当権には附従性という性質があります。債権があるから、抵当権があるの です。逆に言えば、債権が消滅すると、抵当権も消滅するのです。

つまり、抵当権を消滅させるには、まず債権を消滅させる必要があります。 債権を消滅させると、抵当権も消滅するのです。そして債権を消滅させるた めには、お金をB銀行に払う必要があります。先にお金を払い、債権が消滅 したので抵当権が消滅し、そして抵当権を抹消するという流れになるのです。 お金の支払いが先履行なのです。

よって、お金の支払いと抵当権の抹消とは同時履行の関係に立たず、事例2 のAは、同時履行の抗弁権を主張できないことになります。


(2)請負契約
では、次の事例を見ていきましょう。


■事例3■
請負人Aが建物を完成したので、注文者Bに代金の支払いを請求しました。
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この場合、Bとしては、

「代金の支払いは、目的物(事例3の建物)の引渡しと同時履行だ」

と主張できます。なんとなくわかりますよね。売買のときと同じかんじがし ますよね。

同じ様に、もしBが建物の引渡しをAに対して請求してきた場合には、Aと しては、

「目的物の引渡しは、代金の支払いと同時履行だ」

と主張できます。やはり売買のときと同じですね。

ただし、ここで気をつけて下さい。目的物(事例3の建物)の完成は先履行 です。請負人が、「建物を完成させてやるから、代金の支払いと同時履行だ」 と、主張することは出来ません。

時系列的に言いますと、まず建物が完成し、その後に建物の引渡しがあるわ けです。このときに先にある建物の完成ではなく、その後にある建物の引渡 しと代金の支払いが、同時履行の関係にあるのです。間違えやすいところで すから、気をつけてください。


(3)敷金
次に、下記事例を見ていきましょう。


■事例4■
賃貸借契約が終了し、敷金が返ってくることになりました。この場合、賃貸 借契約が終了したので、賃借人は建物の明渡しと敷金の返還について同時履 行の抗弁権を主張できるでしょうか。
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ここでの問題は、敷金がいつ支払われるのか、換言すれば敷金返還請求権と して発生するのはいつか、ということです。

もちろん、賃貸借契約中は、権利として発生しておりませんので、

「返せ!」

とは言えません。


では、返還を請求できるのはいつか、権利として発生するのはいつなのでしょ うか。

賃貸借契約が終了しますと、賃借人は建物を明渡して、引越しをすることに なると思います。結論を言いますと、この明渡したときに敷金返還請求権は 発生します。つまり、明渡しが先履行です。明渡さないと敷金の返還請求を 賃借人としてはできないことになります。言い方を変えますと、賃借人とし ては、

「建物を明渡すから、敷金を返せ!」

という同時履行の抗弁を、主張することはできないことになります。

これはなぜでしょうか。

理由は賃貸人の保護にあります。契約が終了したとしても、すぐに明渡しが なされるとは限りません。居座る人も出てくるかもしれません。壊したなど という事態も生じるかもしれません。そのような損害も敷金で担保させてあ げなければ、賃貸人に酷です。そこで、まず明渡しを先履行としたのです。

ですから、時系列的に申しますと、

賃貸借契約の終了→建物の明渡→敷金の返還

という流れになるわけです。なので、賃借人は建物の明渡しと敷金の返還に ついて同時履行の抗弁権を主張できません。


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